第10章 琥珀色の闇*
「六歳の時だな。 俺がイギリスに留学する前に、『どちらか』を選べ、と言われた。 つまり、捨てられるか生かされるかという事だ。 俺は祖父に頭を下げ、生きる方を選択した」
「静さん、もう。 私は」
こんな事を自分は無理に話せと強いたのだろう。 体を起こし、もういいと言おうとする透子を静が制した。
「構わない。 それで、見放された俺の他の兄弟は自殺した。 無理もないかも知れない。 トリガーは『要らぬ』と言う祖父のひと言。 その際には、俺も腹違いの兄弟に恨み言を吐かれたな。 まあ………犠牲しかなく、無条件に祝福された子でもない。 それでも、俺はまだ幸運なんだろう」
ぼやけて虚ろな透子の視界の中で、薄桃色の綺麗な唇が動いていた。
「そういう事情で結婚を急かされたのも、血を重んじる祖父の思惑でもある。 それについて俺は何とも思わなかったな。 所詮は『仕事』の内なのだから。 ちなみにだが、あのエマという女性の息子。 俺が思うに、色々調べられているだけだろう。 ただ、秀でた子ならば、祖父は将来俺とすげ替えるつもりかも知れない」
「………今さら、ですか?」
「分からない。 祖父も歳を取り、実際に持ってみると、実子の方が可愛いものかな。 おぞましいが、俺の精子も18の時に既に採取され病院にある。 いつ居なくなってもいいように………死んだ本当の父親のように」
ふう、と息をついた静が目を閉じた。
「作り物の王子でがっかりしただろう。 キミが話せと言ったから話したまで。 ただ同情はしてくれるな。 それは俺の今までの人生を否定するということだ」
余程疲れが溜まっていたのか、ややして静が寝息を立て始めた。
ほの暗い室内で、透子は息をひそめて呆然と静の寝顔を見ていた。
それから二人の関係性が変わった。