第1章 お見合い、のち災難
ある日の昼下がりのこと。
義母の話では、カフェではなくサロンというらしい。
チェーン店以外でお茶など飲んだことのない透子には、落ち着きのない場所なのは違いない。
とにかく、ここはお茶や軽食を楽しむ目的である、東京は青山の洋館風の建物内とのことだ。
透子の目の前に座っている男性が、おずおずといった様子で挨拶をしてきた。
「は、はじめ、まして。 ボクは八…神静(やしろしずか)と……いい、ます」
単語の間に不自然な区切りのある話し方だ。
透子はなんとはなしに男性を観察してみた。
張り出した耳に丸い鼻。 分厚い眼鏡のせいか細く小さな目。
頭が大きいのか肩幅が狭いのか、座っている彼のアンバランスな体型は極端な猫背のせいかもしれない。
彼の威厳や自信のなさげなその様子は、こういっては失礼だろうか。 少なくとも大企業を束ねるような、財閥の御曹司にはみえないと透子は思った。