第9章 讃えられる寂しさ
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また仕事に戻るという静たちを見送るため、応接室を出る際、透子がつと、静の髪先に手を伸ばした。
「なんだ?」
「埃がついていましたから」
振り向いた静が立ち止まり透子をじっと見た。
なんだろうと思っていると、西条が感心したみたいに言う。
「へえー、白井さんには良いんだ?」
「………」
西条と静をきょとんと見比べる透子に、静がプイと顔を背けた。
「静って昔っからさ。 頭触られるの異様に嫌うんだよね」
「?そうなんですか」
「そうそう、体位も騎乗位専門で」
言いかける西条に静が冷たい眼差しを投げる。
「西条? 死にたくなければ黙っていろ」
頭とは。 なぜだろう。
ああ、と思い付いた透子が、静を励ますように笑顔を向けた。
「薄毛なのを気にしているのですね? でもまだ大」
「ブ八ッ!!」
隣で腹を抱えて笑い出す西条だった。
静が口の端を無理矢理に上げる。
「………俺は髪が細いだけだ。 それよりも、その服」
「あ、はい。 早速お借りしました」
そんな透子に見入っていた静がポツリと呟いた。
「いい」
白のブラウスとハイウエストのロングスカートという格好だが、デザインが大人っぽく、生地も良い物だというのが透子でも分かる。
「へ、変ではないですか?」
静が気付いて褒めてくれたのかと、透子がぽっと顔を赤らめて照れた。
「!! かわっ……」
片手のひらを顔にあてた静が、体ごと後ろを向いてしまった。
震えている彼の背中を目で追い、一方、相変わらず体を折り曲げて大笑いしている西条に困惑した。