第9章 讃えられる寂しさ
「そうだよ!! 向こうから連絡くれるって言ってたのに、妊娠を告げたらプッツリさ。 この子が小さ過ぎて、身動きが取れなかったしね。 日本人ってのはそんなに無責任なのかい?」
「それは………心細かったですよね」
いつも自分が思うこと。
例え両者が合意の元とはいえ、責任を取らなかったという点では男性側に非がある。
出産や子育てを女性だけが負担する、その上に金銭的な負担からも目を逸らされる。 施設でも、透子はそんな子供をたくさん見てきた。
濃い化粧や派手な服も、この人なりに気を使ったのかも知れない。
女性の青い瞳が不審そうに透子を捉えた。
「アタシ、エマってんだけど………アンタは?」
「わ、私は………ただの」
『ただの』?
透子が言い淀んだ。
静がそんなことをする人だとは思いたくなかった。
もしもそうなら、自分にはとても無理だ。
「────透子様!!」
顔から血の気が引いたと同時に力が抜け、バランスを失った透子の体を、咄嗟に三田村が支えた。
「うっかりしてマシた! 透子様はまだお体が復調していまセン」
美和も心配げに傍へと近寄ってきた。
「────おい。 誰も出て来ないのはどういう事だ。 来客があると話」
スタスタと室外の廊下を歩いて近付いてくる足音と静の声が聞こえ、それに三田村の怒号が重なる。
「きっ貴様あああぁ!!!」
「えっ、えっ……うわあっ!??」
桜木が止めに入ろうとしたが、一歩遅かったらしい。
殴打のにぶい音、それから派手に後ろに吹っ飛ぶ────西条の姿が透子の視界のすみに垣間見えた。