第6章 針
ベッドに横たわる静の額のタオルを冷たいものに取り替える。
透子が困った顔で、彼の様子を見守っていた。
「………この世を去る…前に、キミと存分に…ナマでやりたかった……」
「一度死んで来たらいかがですか?」
弱音を吐く静に首を傾げ、ニコッと微笑みかける。
ショックを受けた静に若干呆れた視線を投げた。
「大体、色々大袈裟なんですよ。 ちょっとのぼせて鼻血ぐらいで」
「もう一度」
「え?」
「さっきのキミの顔はこの上なくかわいかった。 もっと俺を蔑んでくれ」
「………」
黙れ変態。 そう言いたくなる気持ちを堪えた。
一応は、病人なのだから。
美形が鼻にティッシュを詰めてる姿は、個人的には面白いにしろ。
ベッドの脇に肘と顎を乗せ、静と来週の荷運びの話などをした。
静が週中に白井の家に挨拶に行ったあとにでも早々に、人を寄越してくれると言う。
「キミも若干向こうに居ずらいかもしれないし」
そんな彼の気持ちがありがたいと思った。
ふと外の暗さに目をやると、そろそろ夕方の時間になっていた。
この時期の陽が落ちるのは早い。