第3章 逃走
全身がぽかぽかと暖かい。
外套に包まれている部分はもちろん、外気に晒されている顔も熱があるのではないかというくらいに火照っている。
心臓がどくどくと煩いくらいに騒いでいるのがわかって、それがまた余計に恥ずかしさを煽った。
お腹にまわされた尾形さんの手が少しでも動こうものなら、その度にピクリと肩が揺れてしまう。
「…くくくっ」
尾形さんが小さく笑った。
私が意識しているのをわかっていて面白がっているのだろう。性格悪い。
「いちいち反応するな」
そんなこと尾形さんに言われなくたって、揶揄われるのがわかっているんだからドキドキビクビクしたくないですよ。
でもこの体勢じゃあ、するなっていう方が無理ってものでしょう。
寒さをしのぐためとはいえ、ぴったりと密着したお互いの身体。
尾形さんがくっくと笑うたびに、耳に息がかかる。
とにかく一刻も早く寝て、少しでも体力を回復しないといけない状況なのは理解しているつもりだ。
ドキドキなんてしている場合じゃないこともわかっている。
明日もきっと朝から山の中を歩き回ることになるだろう。
また二階堂さんに足手まといなんて言われるのはまっぴらだ。
寝ることに集中しなくては、と硬く目を閉じて俯いた。
視界を遮断すると、さっきまでのドキドキが嘘のように落ち着いてくる。
ふんわりと抱かれている感覚がとても心地いい。
やはり相当疲れていたのだろう。数分もしないうちに急激な睡魔に襲われ徐々に夢の中へと誘われていく。
しばらくしてすやすやと寝息を立て始めた頃、もぞもぞとお腹の辺りで動く何者かによってそれは妨害されてしまった。
何者かって、尾形さんしかいないんだけど。
始めのうちは、体勢を変えたいのだろうと思った。
ずっと同じポーズだと疲れちゃうし。
だけどなんだか様子がおかしい。
尾形さんの両手は腰やお腹をやわやわと触っていたと思ったら、次第に上へと向かってきた。
メイド服越しに胸を揉まれたところで、夢うつつだった意識が完全に覚醒した。
「ちょ…なにしてるんですか、尾形さん!」
声を荒げて振り返る。真顔の尾形さんと目が合った。
「悪い、男の本能だ」
全然悪いと思ってる顔じゃないですよね!?それ!?