強くて、脆くて、可愛くて【東リべ夢】〘佐野万次郎夢〙
第1章 最強の男
私は園の中に入り、下の弟である稜流(いずる)が私を見つけて走って来る。
「ねーねっ!」
一緒に来るわけでもなく、門の近くで待つ佐野君に稜流が気づいたのか、ジっと見つめていた。
「あ、稜流っ!」
突然走り出した稜流を追いかけて、私も走る。
佐野君のズボンを掴んで、クイクイと引っ張る。
「ん? どした?」
しゃがんで稜流の目線に合わせるようにして、佐野君は優しく笑う。
「いずるです。こんにちわ」
「はい、佐野万次郎です、こんにちは」
軽く頭を下げた佐野君がニカッと笑う。
「まんじろー、さん」
「万次郎でいいぜ」
「まんじろーっ! いっしょにかえる?」
嬉しそうに目をキラキラさせながら、佐野君の服を掴んだ。
「おしっ、帰るか」
「でも、佐野君バイク……」
「大丈夫大丈夫」
全然大丈夫じゃないだろうに、佐野君は稜流と手を繋いで先に歩き出してしまった。
私はバイクを気にしながらも、小走りで二人に並ぶ。
小さな稜流の空いている方の手が、私の手を握る。
佐野君に興味津々の稜流は、家に着くまでずっと質問ばかりだった。
「おかえり、ねーちゃ……」
玄関に走って来た昴流が、佐野君の姿を見つけて動きを止めた。
「ただいま、昴流。お留守番ありがとう」
「うん……」
何か言いたげにしている昴流に気づいたようで、佐野君が私より先に口を開いた。
「一人で留守番出来るんだな、かっけーじゃん」
少し驚いたみたいな顔をした昴流は、頬を赤くした。
「べ、別に……慣れてるし……」
目を逸らしながらも、満更じゃない昴流の頭を軽く撫でて、佐野君は私を見た。
「んじゃ、俺帰るね」
「佐野君、ありがとう」
そう答えると、佐野君はまた人懐っこい笑顔で笑った。
「やだっ! まんじろー、帰っちゃやだぁっ!」
佐野君の腰にしがみついた稜流が、半泣きで駄々をこねる。
「稜流。わがまま言わないの」
「ぅー……ぃやだぁっ……」
ついには泣き出してしまう稜流を、どうしたものかと考えていた時、佐野君が稜流を抱き上げた。
「稜流、俺も帰るのは寂しいけど、ねーね困らせたくねぇからさ」
言って稜流の頭にポンと手を置く。