強くて、脆くて、可愛くて【東リべ夢】〘佐野万次郎夢〙
第1章 最強の男
書いている間も注がれ続ける視線に、物凄いプレッシャーだ。
こんなに緊張するハートを書いたのは、生まれて初めてだった。
「あっ、ちょっと待って」
何とか無事にハートを書き終えて、ふと忘れていたものを取り出して、オムライスのハートを避けて突き刺した。
「……旗……」
「あ、だ、駄目だった? 弟達にいつもせびられるから、出来るだけ多く作ってあるの」
予備の旗を見た後、オムライスに刺さった旗を見つめる佐野君の驚いていた目が、徐々に爛々としてくる。
「は、いい奴だし、いいねーちゃんだな」
笑顔で嬉しそうに笑う佐野君に、また鼓動が早くなる。
「うんまぁーっ!」
まるで小さな子供みたいに無邪気にはしゃぐ佐野君を見ながら、こちらまで釣られて笑顔になる。
彼の周りには笑顔が溢れていて、彼に惹かれて集まる人がたくさんいるんだろうなと思う。
みんなが解散した後、片付けをしている私は、凄く視線を感じていた。
「あの……佐野君……」
「ん? 何?」
「その……龍宮寺君達と一緒に帰らなくてよかったの?」
流しで洗い物をする私の前で、流し台を挟んで座りながら机に頬杖をついた佐野君が旗を持ちながら私を見ている。
「何で? ここにいちゃマズイ?」
「いや、そうじゃないけど……」
私といても、別に何も面白い事なんてないだろうに。
それに、物凄い視線にいたたまれなくなる。
「あ、の、あんまり、その、見つめられると……困る、かな」
多分今、私は顔が赤くなっているだろう。
「何で?」
「だっ、だって、普通は見つめられたら、恥ずかしい、でしょ……」
そう言って顔を背けている私を、それでも見つめ続ける佐野君が、私に手を伸ばす。
「は……」
頬に触れた佐野君の手に、体を固めた私のスマホが震える。
電話は父で、仕事が入って弟のお迎えが行けないというものだった。
「送ってく」
「でも、悪いよ」
「お前すぐ遠慮すんのな。ほら、行こ」
佐野君に手を引かれて学校を出た。バイクに乗り、佐野君のお腹に腕を回す。
風が冷たくて、でもそれが気持ちよくて。あっという間に幼稚園に着く。
さすがに幼稚園前にバイクを停めるのはマズいと思い、少し離れた場所で降ろしてもらう。