強くて、脆くて、可愛くて【東リべ夢】〘佐野万次郎夢〙
第4章 守りたいモノは
何も言わない万次郎を放っておいて、私は続ける。
「離さないって、言ったくせに……嘘つき……」
「うん。俺、最低だから」
「やっぱり、嘘つきだね……」
最低なら、本当にクズならどんなによかったか。そしたら、嫌いになれたのに。
「自分が傷ついてでも人の幸せを願えるような、こんなにも優しくて寂しい人を、私は他に知らないよ」
「俺はそんな立派な人間じゃない」
「万次郎は優し過ぎるんだね」
「違うって……」
言い返すような言葉を遮るように、私は万次郎を後ろから抱きしめた。
「万次郎は優しいよ。本当に私を引き離したいなら、もっと非情にならなきゃ」
何も言わなくなった万次郎を、更に強く抱く。
「そんな程度で、私の気持ちが離れるなんて思わないで。万次郎は……私の気持ちを一番甘く考えちゃ駄目だよっ……」
涙が、溢れて止まらない。
気持ちも、溢れる。
「絶対っ……っ、別れない、からっ……」
言葉に詰まりながら、必死に万次郎にしがみつく。
万次郎に回されていた私の手が外される。
本当に、駄目なのだろうか。私は、これから万次郎のいない日々を、普通に過ごしていけるのだろうか。
だけど、外された手は万次郎の冷えた手に握られたままだ。
「また、こないだみたいに同じような事があれば……俺は耐えれる自信が無い。相手を殺しちまうかもしれない……」
弱々しく発せられる言葉と、微かに震える万次郎の手。
「あん時は未遂だったけど、今度は本当にヤられちまうかもしんねぇって思ったらっ……俺のせいで、もっと傷つけたらって、お前に何かあったら……俺はもうっ……生きていけねぇんだよっ!」
万次郎が泣いている。
どんな時だって無邪気に笑ってて、最強だ無敵だと言われて、何にも屈しない強さを持ってる。
そんな彼が、苦しんで、泣いている。
万次郎の腰に手を回して、抱きしめる。
ここに来る途中、エマちゃんが言っていた。
「マイキーはね、みんなの前では強がりなんだよ。でも、本当は凄く弱くて、寂しがり屋さんだから、隠れて一人で泣いてるような人なの」
みんなが知ってる万次郎の強さの裏には、弱さと脆さが隠されているんだね。
私は万次郎を抱きしめる力を強くした。