強くて、脆くて、可愛くて【東リべ夢】〘佐野万次郎夢〙
第4章 守りたいモノは
万次郎が中で暴れているのは、外にいても分かる。
「ちゃん……」
「エマちゃん、龍宮寺君、ありがとう。迷惑かけてごめんね」
「何言ってんだよ。ちゃんが謝る事なんて、何もねぇだろ。卑怯な手使ったアイツ等が悪いんだし」
龍宮寺君が怒りを顕にして、拳を握る。
「女の子を盾にしたうえに、乱暴するなんて許せないっ!」
エマちゃんも怒ってくれるから、傍にいてくれるから、私は今不安にならずに済んでいる。
少し中が静かになったのを見計らい、龍宮寺君がそちらを見る。
「そろそろ行かねぇとやべぇか」
「え?」
「あぁ、多分マイキー相当キレてるから、相手が死ぬ前に止めねぇと」
万次郎が人殺しになる前に、止める為に自分がいるのだと苦笑する龍宮寺君が来た道を戻る。
私はそれに合わせて立ち上がる。
「ちゃん、ダメだよっ!」
「ありがとう、エマちゃん。でも、私行かなきゃ……」
元の場所に戻る為に、逸る気持ちを抑えて足早に歩く。
早く、万次郎の傍に。
中に入ると、龍宮寺君に後ろから止められている万次郎が、力なく立っていた。
男達は、血だらけで見るに絶えなかった。
私は万次郎に歩み寄る。
「万次郎……」
近づいた私を、視点の合わない目が見つめる。
「、別れよ」
「え?」
「他の男に触られた女とか、俺無理。ごめんな」
感情のない笑みを向け、万次郎は私の横を通り過ぎる。
私は、頭が真っ白で、エマちゃんに声を掛けられるまで、ただそこに立っているしか出来なかった。
家に帰ると、泣きながらしがみつく弟達を抱きしめて、流れそうになる涙に耐える。
伯母さんは何も聞かずにいてくれて、それがありがたくてまた泣きそうになった。
疲れてしまった私は、何もする気が起きなくて部屋へ戻って気づかれないように、ベッドに潜り込んで泣いた。
私の体を包む、万次郎の服の甘い香り。
もう、あの優しくて甘い彼の腕に、包まれる事はないのだろうか。
最後の彼の言葉が、どうしても本心に思えなくて。
だって、謝った時の彼が、あんなにも寂しそうで、苦しそうに笑うから。
だから私は、万次郎の言葉を信じない。