強くて、脆くて、可愛くて【東リべ夢】〘佐野万次郎夢〙
第3章 もっと近くで
初めて会った日からを思い出していた。
「最初は、無邪気な笑顔とか優しい笑顔とかいいなぁって思って、自分の気持ちに真っ直ぐ向き合う所とか、素直に人を褒めたり謝ったり出来る所も凄いし。何より、嘘とか出来ない事は絶対言わないから……。うーん、やっぱり全部が好きなんだと思う。ははは、答えになってないかな」
二人がニヤニヤしている。何か変な事を言ったのだろうか。
「そっかぁー、何か分かるなぁー」
「うんうん、結果やっぱり全部ってなるよねぇー」
何だろう。凄く、楽しい。これは、楽し過ぎる。
これが恋バナというやつか。
初めての事に、今のこの雰囲気を噛み締めるみたいに、全力で楽しんだ日だった。
その夜、自室で寝る準備をしていると、外でした聞き覚えのあるバイクの音に、体が勝手に反応する。
スマホが鳴る。
万次郎からの連絡に、私は机の上にある紙袋を手に取って玄関へ向かう。
外へ出ると、優しく笑う万次郎の姿があった。
少ししか離れていないのに、物凄く久しぶりに会ったような感覚だ。
「よぉ、今日楽しかったか?」
「うんっ! 凄く楽しかったっ! 女の子同士でなんて初めてだったし、エマちゃんとヒナちゃんには、本当に感謝しかないよ」
「そっか、よかったな」
万次郎は私の言葉を、柔らかい笑顔で聞いてくれている。
ただ、少し引っかかった。
寂しそうな顔が、一瞬見えた気がしたから。
「万次郎といる時も、ちゃんと楽しいからね」
「え?」
予想外だったのか、万次郎がキョトンとする。
万次郎の手を握って、自分の胸の前で抱きしめる。
「今日ね、いっぱい万次郎の事話したんだ。万次郎をどれだけ素敵で、どれだけ好きかって、自慢だってしちゃった」
万次郎の頬が少し赤くなる。
「万次郎といない時だって、万次郎の事ばっかり考えてるんだって、改めて感じた。話せば話すほど、万次郎が大好きなんだって思い知るんだよ」
だから、寂しく思わなくていいんだと、言いたかった。
自分の言葉が、全部の気持ちが届けばいいと願う。
通じてくれたのかは、目の前で心底嬉しそうに、少し恥ずかしそうに笑う万次郎を見れば分かる。
握る手を引っ張られ、強く抱きしめられる。
万次郎の甘く柔らかな匂いに包まれる。