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依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長

第58章 新しい道へ


トイレの表示に駆け込み、個室に入る余裕もなく、磨かれた手洗い場の洗面器に顔を突っ込む。

「がほっげほげほっ」
腹の底から渦を巻いて上がってくる灼熱に、乱暴にネクタイを外す。
「うっげ」
焼け付くような胸元のシャツを握り締め、ボタボタと唾液混じりに垂れる吐瀉物を水道で流した。

「う、ぐっ」
ズキズキと、ドクドクと痛みだした右目を抑える。

「おさ、まれ」
薬、と内ポケットを探ろうとして、いつものジャケットではない事に気付く。
車か、と苛立って台の下を革靴で蹴る。
「おさま、れっ」
拳で額を叩きつける。
額から垂れ落ちてくる脂汗が鬱陶しく、ハンカチを取り出すと、床にカコン、と何かが落ちた。
霞かけた視界で捉えたそれは、小さなスプレーボトル。
🌸愛用の香水を分けてもらったものだった。

ノロノロとそれを拾い、ハンカチに一吹きする。
手洗い場に背を預け、屈み込んでハンカチに顔を埋める。
少し息苦しいのに、徐々に心臓が落ち着いてきて、体から熱が引いていく。
二回、息を吐くと、叩きつけるほどにうるさかった心音は消え、穏やかな呼吸ができるようになった。

左手のボトルを握りしめ、目を閉じる。

ヴー、ヴー

ジャケットの内ポケットの携帯が振動している。

(戻ら、ねぇと)
🌸が心配する、となんとか呼吸を整えて、立ち上がった。
ふらつきながら、壁伝いにトイレを出ると、シャン!と🌸が駆け寄ってきた。
「悪い」
いつもどおりに笑ったつもりだったが、🌸は顔を顰めた。

「シャン、帰ろう」
え?と手を引く🌸に足を踏ん張る。 
「何言ってんだ。
 結婚式は、」
なおも引っ張る🌸。
「いいから。帰って、ホンゴウさんの所に行こう」
「大丈夫だって、」
「大丈夫なんかじゃないっ!」
振り返った🌸の目元から雫が飛び散った。

「自分の顔、見て!」

突きつけられた小さな手鏡。
血の気の引いた真っ青な自身の顔から目を背けた。

「そんな顔でお祝いされたって、ローも🎀も嬉しくないっ!」

言い返す言葉もなく、こくり、と頷いた。

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