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依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長

第1章 プロローグ



古ぼけたアコースティックギターを抱えながら、風に捲れる五線譜を抑える。
コード弾きで、古い歌を歌う。
背後から、サクサクと砂を踏む音。
鮮やかな赤が、癖を持って風に揺れている。
履き古したサンダルに入った砂を、器用に片足を上げて振り落とす。
「まだ泳いでるのか」
視界の先の海に漂う彼女が受け継いだブルー・グレイを細める耳元が一瞬、強く反射して輝いた。

「歌わないのか?」
適当な岩場に腰掛け、頬を撫でる風が気持ちよさそうに閉じられた右目にある古傷と風に揺れる左袖。
相棒を抱え直し、すう、と息を吸う。

 ♪〜

いつも子守唄に聞いていた、姉のように慕う歌姫の歌を歌う。
古い傷が残る片目を開けた父が微かに笑みを零す。

 ♪〜

夕日を背負い、海面から伸びる影に、母の面影を写す。

 ♪〜

濡れた体で傍らに来ると、目を閉じて口を開く。

 ♪〜

すぅっ、と潮騒に消えた混声。

「歌がうまいのは、血筋じゃなさそうだな」
ケタケタと笑う声に揺れて煌くピアス。
背後から、そのピアスがピタリと合う指を持つ声に振り返る。

「あと30分くらいで着くって」
「ああ、無事に船へ乗れたのか」
「ここからでも船が見えるかな?『おじいちゃん』」
微笑む彼女の肩を引き寄せると、白い首筋にかかるペンダントが揺れる。
背中に添えられた左手。その薬指に嵌る二本の指輪がキラリと強く光った。

海を見下ろす赤い屋根の家。
ガレージの赤のSUV。
窓辺に飾られたサンキャッチャー。
過去を携えるものたちが、今でも二人を見守っている。
それらに囲まれた家で、また新たに刻まれた記憶がこれから刻まれていく記憶を手招いている。

「ねえ、生まれた子っていとこ?甥っ子?」
「うーん、難しいことはわからないけど、『家族』かな」
母の答えに、そうだな、と父は笑った。
「帰るか」
立ち上がる父の揺れる左袖を結う母。
ケースに入れた相棒を抱えると、寄り添う2人の長い影。それについていく背中を追った。
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