第1章 始まり
「母さん、絶対エアリスに行かせちゃダメだから」
「そうだね。確かにエアリスに行かせるのは危険だね。それに・・・」
そこで一旦言葉を句切ると、母さんはクラウドを見た。
「あんた、ソルジャーだろ?」
「・・・知ってるのか?」
「昔、ちょっと色々あってね」
母さんは顔を曇らせる。
「・・・クラウドさん。悪いけど、今晩の内にエアリスには内緒で出て行ってくれないかい?」
「ああ、それは構わないが・・・」
「じゃあ、私が送っていく!」
エアリスを助けてもらった恩はあるし、このまま追い出すのはさすがに後ろめたい。
母さんはこちらを見て頷いた。
「そうだね。あんたなら大丈夫だろう」
私も頷き返すと、クラウドの方を向いた。
「私がちゃんと七番街まで案内するから」
エアリスは怒るだろうけど・・・まぁ、大丈夫だろう。
「クラウドー! 上がってきて!」
二階からエアリスの声が聞こえてきた。
部屋の準備が出来たのだろう。
クラウドに頷きかけると、彼は二階へ上がっていった。
母さんは、少し寂しそうな表情でその後ろ姿を見送る。
「ソルジャーなんて・・・。また、エアリスが悲しむだけさ」
「・・・そうだね」
母さんはきっと、五年前の事を思い出してるんだろう。
『彼』がいなくなって悲しみに暮れるエアリスは、本当に見ていられるものじゃなかった。
食事もろくに取らなかったし、大好きな花の手入れもしようとしない。
『彼』が姿を消しただけであんなに悲しんでいたのに、もし先日の事件を知ったら・・・。
考えるだけで、怖かった。
「・・・ミキ、どうしたんだい? 顔色が悪いよ」
「えっ・・・」
気がつくと、母さんが私の顔を覗き込んでいた。
顔に出てしまっていたのだろうか。
私は慌てて微笑もうとするが・・・上手く、できなかった。
「ううん、なんでもない」
「本当かい? まだ怪我が治ってないんじゃ・・・」
「大丈夫だから」
私はそれだけ言うと、逃げるようにその場を後にして外へ出た。
甘い花の香りが漂ってくる。
・・・しばらく外にいよう。
そう思い、私は庭の方へ歩いていった。