第2章 プロローグ 亡命
一人で行くという事にハノンが反対する。
「私の夢の事もあるんだよ。ユキネを一人で行かせるわけには」
「大丈夫、様子を見てくるだけだから。それに今までも大丈夫だったでしょ?」
今まで…つまり夢を見た日のユキネの様子の事だ。
確かにユキネ自身に何かあった事はない。
でもそれは偶然、運が良かっただけかもしれない。
「危険なら、わたしだけじゃないと思うから。ハノンだってシノンだってありえるかもしれない」
特定の人物ではない、今までがそうだったから。
もちろん注意は怠らないけど自分の役目をちゃんと果たす。
「ハノンとシノンは自分の立場をよく考えて。…今回の事、次第によっては決断を迫られるかもしれない」
「ユキネ、それって…!」
シノンが問う前にユキネが大きく飛んだ。
港へ行ってくると言って屋根へ登り、その場を去っていく。
「シノン、行こう」
ユキネを見送っていたハノンの真剣な眼差しが、シノンへと向けられる。
夢と使者、そしてユキネの言葉。
ユキネもそれを聞いたハノンもきっと何かを感じ取っている。
(きっと…もうすぐ平和は終わってしまう)
シノンは悪い考えを拭い去ることが出来ないまま、ハノンの後を追った。
屋根を軽々と伝いながらユキネは港へ急ぐ。
二人の話によればそろそろ使者が来る時間帯のはずだ。
不意に、ピタリと足を止めた。
港はもうすぐという所で目の前に立った人物がいたからだ。
「…あなたは」
「ユキネ様に、王から言伝がございます」
ハノンとシノンの執事であるクラウスが、スッ…と一枚の紙をユキネに手渡す。
それを読んだユキネがクラウスに小さく頷くと踵を返した。
同時に背後から轟音が鳴り響く。
火の海と化した港をユキネは一瞬見て、すぐにその場を後にした。
「………二人をどうか、よろしくお願いします。ユキネ様」