第2章 プロローグ 亡命
「な、何の音!?」
秘密の隠れ場所へと向かう途中、驚いたようにシノンが音の方へ振り返った。
そこからは煙がもくもくと立ちのぼっている。
「港の方から…?」
「…………」
じ、と港を見つめてハノンが何かに耐えるように唇を噛んだ。
―――――決断を迫られるかもしれない。
ユキネの言葉を思い出す。
シノンにどうするの?と声をかけられてハノンは口を開く。
「行こう。私たちは、港に行ってはダメな気がするの」
「だけどユキネは…?」
一瞬、ぴたりとハノンは足を止めたが小さく首を振った。
きっとユキネなら大丈夫だとそう言って少しだけ足を早めて再び歩き出す。
シノンもわかったと頷いてハノンの後を追った。
それから少しして、隠れ場所へと到着した。
「シノン、食料の確認を。私は他の物を見てくるから」
「了解!」
隠れ場所へ着くなり、すぐに行動を開始する。
黙って隠れて待つ事など毛頭無い。
「救急箱、防寒具、薪、寝袋…」
「ハノン。食料と水は十人で一ヶ月くらい持ちそうなほどの量があるよ」
そうして手際よく確認していた二人だったが、外で物音がして咄嗟に身構えた。
二人の腰にはいつも持ち歩いている細剣が下がっている。
柄に手を添えて、二人が扉の左右に音を立てないようにして立った。
「『ルビー、エメラルド、アメジスト』」
「「!!」」
コンコン、と軽くノックの後に聞こえた言葉。
声音は紛れもなくユキネのもので、そして幼い頃に考えた三人の合言葉。
三人の瞳の色を宝石に例えて、声をかけた側の宝石を最初にハノン→シノン→ユキネの瞳の優先順位で問いかける。
そうして声をかけてきた人物の声音をよく聞きながら、その人物の瞳の色を今度は宝石じゃない色で答えるというものだ。