第2章 プロローグ 亡命
「…というわけなの。ユキネはどう思う?」
「んー………」
今朝の話を一通りユキネへ話したハノンとシノン。
ユキネは生まれた時からの二人の護衛役。
幼い頃から戦闘訓練を受けている。
夢の中の彼女は、誰がどう見ても明らかに手遅れの状態だったのだが。
ユキネはこうして生きている。
あんな深い傷を負ったが奇跡的に回復したのだと、後にユキネの両親から聞いた。
少し考える仕草をしたユキネはすぐにハノンとシノンへ向き直る。
「いつもの夢と、使者が来るタイミング…合い過ぎててわたしも気になる」
「そうだよね。やっぱり警戒するに越した事はないかな」
ユキネの言葉にシノンはギュッと拳を握る。
夢の話はユキネも知っている。
そういえばそんな怪我を負ったねとたった今思い出しましたという風になんともなしに言ってたが、二人にとっては忘れられない過去である。
シノンの方は当時の事はあまり覚えていないので、ハノンから聞いただけではあるが。
そしてマルクトの使者が来る事に関して。
三人がいるこの国・ブルイヤールはマルクト帝国の北の海に存在する小さな島国であり、他国との関わりを避けている。
というより特殊な結界で島を覆い、地図上には存在しない国となっているのだ。
しかし隣国とも言える位置のマルクトとは密かに交流している。
そのため本当にごく僅かだがマルクトから使者がたまにやってくるのだ。
「突然来るのもおかしいよね。いつもは長いやり取りを終えてからなのに」
シノンが言うように、使者が来る時は何度もやり取りをして本当にブルイヤールに来なくてはならない案件なのか等、細かく確認してからくるものなのだ。
それなのに今回はその確認もなく、そしてそれをハイドが承諾している事も何かおかしい。
「…お父様に何か考えがあっての事だと思うのだけれど、胸騒ぎが治まらないの」
「わたしが調べてくる。二人は何かあった時のためにあの場所へ」
ユキネの言葉にえ?一人で?とシノンが返すとこくりと頷いた。
二人を守ることがユキネの役目。
あの場所とは王族の身に何かあった時のために隠れる場所。
これは王族とその家系を守る者にしか知らされていない。