第3章 第一話 運命
川沿いを歩いている足取りも随分と軽い。
新米兵士というのは嘘なのだろうかとティアは少しだけ警戒を強くした。
「お前さ~。なんで屋敷に乗り込んできたのか、とかヴァン師匠に襲いかかった、とか話さねーの?」
「え、屋敷に乗り込んだ?」
突然ティアに話しかけたルークの言葉にハノンが首を傾げた。
ヴァンという人物も知らないが、襲いかかったという言葉も引っかかる。
一体この二人にどんな事情が…と思った所で、ティアが小さくため息をついた。
ルークは全く三人を疑っていないのだろう。
だからここに来る前の屋敷での出来事をペラペラと喋ってしまっているのだ。
「…あなたに話しても仕方ないことだと思うし、理解できないと思うわ」
それに、知ってどうするつもり?
ティアのその言葉はルークにだけではなく、三人にも向けられているような気がした。
二人に何があったのか、詳しい事は分からないがティアは話す気はないのだろう。
「怪しいヤツなら、一緒にいたらやばいかも知れねーだろ」
取り繕うともしない素直なルークの言葉にティアは小さくふふっと笑った。
何笑ってんだよとルークは怒ったが、ティアは小さく謝ると危害を加えるつもりはないとルークに視線を向ける。
「今はこれだけしか言えないけど、信じてもらえないかしら」
それに自分だけではなくハノンたちもいる。
未だ信用ならない部分もあるが、ルークにとっては自分と二人だけよりはだいぶマシではないだろうか。
そう考えるとこうして一緒にいるメンバーは不思議な関係だ。
公爵の息子のルーク。
ルークを狙ったのではなさそうな、しかし別の目的で屋敷へ侵入してきたというティア。
素性を隠しているハノン、シノン、ユキネ。
とりあえずティアや三人に着いていくことしか出来ないルークは、ティアの事を信じる事にしたようだった。
「しっかし…暗くて周りはよく見えねーし、魔物は出るし、や~なところだぜ。ここは」
「これでもこの渓谷は少ない方ですよ。大きな森や洞窟などはもっと魔物も出ます」
「暗いのは…元々木が多いと薄暗いのもありますけど、今は夜ですからね~」
ハノンとシノンがそう答えると、ルークは大きくため息をついた。
せっかく街の外に出られたというのに、目が覚めたら真夜中で魔物もいる。