第3章 第一話 運命
「盗み聞きするつもりはなかったの、ごめんなさい」
「なんだぁ?お前らは」
「えと、私たちは…」
答えようとしたハノンの前にユキネが出て、ハノンを手で制した。
「実はわたしたちは道に迷ってしまって。そうしたらこっちから声がしたので人がいるのかなと」
「………」
じっ…と警戒を解かないままユキネを見つめるティア。
無感情のままのユキネの表情は読めない。
「話を聞いていたらバチカルという名前が出てきて思わず…」
わたしたちもバチカルへ向かう途中だったんですとユキネは言葉を続けた。
一瞬驚いたハノンとシノンだったが、ルークとティアを警戒しての事だろうと瞬時に理解した。
バチカル。キムラスカの首都だ。
マルクトと敵対しているキムラスカの人間が何故ここにやってきたのか。
そして自分たちがマルクト人だと知れば、二人はここから逃げてしまうかもしれない。
先程の会話からしてここへ来たのは何らかの事故のような気もするが、今はまだ自分たちの正体を明かさない方が良いとユキネが判断したのだ。
一方でティアも警戒は解いていなかった。
シノンがうっかり声をあげるまで気配に気づいていなかったのだ。
三人が気配を消して草陰に隠れていたのならば、いつから自分たちの会話を聞かれていたのか。
そもそも何者なのか、何も分からない状態では警戒を解けない。
しかも今は傍にルークが居る。
「(彼はちゃんと屋敷に帰してあげないと…)…あなたたちは、何故バチカルに?」
「実は…こんな服装ですがわたしたちは新米兵士なんです。とある任務でここへやってきたんですが…恥ずかしながら…」
それで道に迷ったのだと言うと、ティアは少しだけ警戒を解いたようだった。
新米とはいえ兵士なら気配を消してこちらの様子を伺うのは自然だと判断したのだろうか。
嘘と真実を交えながら言葉を続けるユキネに焦れったくなったのかルークが叫んだ。
「だぁーもう!お前らの事情なんてどうでもいいんだよ!兵士なら俺をバチカルの屋敷まで護衛しろってんだ!!」
「護衛…?…失礼ですが、こちらは…」
「あ、彼は…」
「俺はルーク・フォン・ファブレだ!」
ユキネの問いにティアが答える前に、ルークがニヤリと笑いながら鼻高々に自己紹介を始めた。