第3章 第一話 運命
「私も。…国を出てから色んな事を体験できて正直嬉しいの」
もちろん大変な事もたくさんある。
だけど城の中にいただけでは分からなかった事を学べて、二人は毎日が楽しかった。
渓谷に来る前に念のためにと準備してきた食事を簡単に済ませてユキネはハノンとシノンに休むように言う。
これが寝袋かー!と感激しながら寝袋に入るシノンとは反対に、ハノンが少し心配そうにユキネを見た。
「ユキネは休まなくて大丈夫なの?」
「大丈夫。任務でも慣れてるし…。ここには魔物も居るし賊とかに狙われたりしたら大変だから、わたしが見張りをしておくよ」
だから二人は安心して休んでねとユキネは言った。
漆黒の翼は未だに見つからないが、他の賊が居ないとも限らない。
ユキネと違ってこういう環境に慣れてない二人はその言葉に甘える事にした。
それから数時間が経過する。
不意にユキネが俯いていた顔を上げた。
この反応は…第七音素…?
そう思った時、空に一筋の光が煌めいた。
一瞬身構えたユキネの動いた気配にハノンとシノンの意識が浮上する。
どうかしたの~?と少し寝惚けた様子のシノンの言葉に、起こしてしまった事を謝罪するユキネ。
しかし纏っている空気は緊張からか少しピリピリしている。
そんなユキネにハノンが首を傾げた。
「ううん、それはいいんだけど…何かあったの?」
「…あっちから何かの気配がする。見てくるから二人はここに居て」
「え!?いやいや漆黒の翼かもしれないし、シノたちも行くよ!」
ユキネは漆黒の翼ではないだろうと思ってはいたが、気をつけるに越した事はない。
本当は一人で様子を見に行きたいのだが二人は残る気はなさそうだった。
気をつけてとユキネが一言声をかけ、三人は極力足音を立てないようにして気配を消しながら奥へと向かった。
「…ーク、起き…」
「…?女の人の声?」
聞こえてきた声に首を傾げたシノンに、しっ!とハノンが口に指を当てる。
草陰から見れば女性が少年の体を揺すって起こしている所だった。
ルーク、起きてと言う女性の言葉にユキネが眉を顰める。
ルーク…それに赤い髪…どこかで…。