第2章 プロローグ 亡命
譜術を得意とするシノンが張り切って答えたが、反対にハノンは少し申し訳無さそうに返事を返した。
ハノンはどちらかというと剣技を得意としている。
かと言って譜術を使えないわけではないので、この船に結界を張ってくれるだけでもいいとユキネは答えた。
「もしキツければ運転を変わってもらえれば…」
「そ、それだけは嫌かも…」
機械の操作はもっと苦手なのだ。
ハノンは全力で拒否をして、シノンに譜術の事についてアドバイスを聞いていた。
二人は双子だけど、性格も得意な事も全く真逆だ。
不思議なものだと感じながら、ユキネはスピードを早めた。
そうしてグランコクマへ亡命したのが、今から四年前の話だった。
「タタル渓谷で漆黒の翼が?」
「そうなんだ…商人たちが品物を盗まれないかとヒヤヒヤしてるもんさ」
グランコクマの街中での商人からの証言で、ハノンがふむと顎に手を当てる。
漆黒の翼というのは盗賊団の名前だ。
多くの人から金品を盗んでいると噂が絶えない。
「そうですか…分かりました、陛下にお伝えしておきますね」
「お願いしますよ。これじゃぁ安心して仕事もできやしない」
(漆黒の翼、か…でも盗まれているのが権力者ばかりっていうのが気になる…)
それでも権力者であろうが何であろうが盗みは盗みだ。
ハノンは城へと足を進めた。
「ピオニー陛下」
「お、戻ったかハノン。それで魔物の討伐は?」
問題なく、と短く答える。
ハノン、シノン、ユキネは四年前、ブルイヤールを出て数日後のこと。
危惧していたキムラスカ軍との遭遇もなく無事グランコクマに到着した。
初めはもちろん見慣れない船に予定されてないピオニーへの来客で怪しまれた三人だったが、ブルイヤールと状況を細かく説明するとピオニーはすぐに三人を匿った。