第2章 年末の男【五条視点】
勝手知ったる家のように、傑が部屋の外に出ていく。
去年と同じ部屋であることをゆめが後ろから伝えると、アイツは把握したように片手を挙げ、さっさと歩いて行ってしまった。
後からゆめが小走りで案内に向かう。
結局、ここ最近ではないレベルで集中して、小一時間ほどで書類の束を片付け、傑と談笑する頃には疲れてきってしまった。
ぐったりとソファにもたれかかり、溜め息を吐いた。
「御当主様の仕事はどうだい?」
「傑、その言い方腹立つ」
「いいじゃないか、どうせ夢野さんに尻を叩かれながら頑張ってるんだろう」
ゆめが部屋へ持ってきてくれた熱い激甘ココアをすすり、向かいのソファに座って揶揄する親友を睨みつける。
すっかり馴染んでやがる。どっかりとソファに腰を下ろす様は、我が家で寛いでいるかのようだ。
「ところで、さっき夢野さんに『結婚しないの?婿養子もいけるけど私はどうかな』って口説いてみた」
傑の一言に、思わずココアを噴き出してしまった。
僕がむせる前で、相変わらず良い香りだと珈琲の匂いを楽しみながら、カップ片手に傑が頷いている。
五条家で婚活するな。しかもよりによってゆめ相手に。
だが、どんな反応を返されたのか。すごく気になってしまい、ジーッと傑を見てしまった。
思った以上に僕が動揺したのが面白かったのか、ニヤニヤしながらこちらを見返してくる。
「秒で一言『お気持ちだけで結構です』って、真顔で言われたよ」
さすが鉄壁で難攻不落だ、と肩を竦めた男はどこまでは本気の言動なのか、真偽をはかりかねる。
ゆめの完璧な守りが、逆に一部の男の好みに刺さるらしい。
親戚の集まりや御三家会合に連れていくと、毎回一回は声を掛けられている。
どんな男にもなびかないので、安心しきっていたが、まさか親友がそういった内容で彼女に声を掛けるとは思っていなかった。
「夢野さん、好きな人いるんじゃないかな」
不穏になる傑の一言に、背中がひやりとした。
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