第2章 年末の男【五条視点】
「傑……からかうのはいい加減に……」
「私は確信したけどね」
ゆめとどんなやり取りしたんだ。
会話の内容を聞いても、含み笑いを洩らす傑からは秘密だと言われてしまった。
コイツの恋愛センサーは馬鹿に出来ないところがある。人の感情の機微に敏感だ。
細かいところに気配りが効くので、高専時代も傑の方がモテていた。
――ゆめに好きな人がいる。
その言葉に胸がザワザワと落ち着かなくなる。
「悟もさ、いい加減に腹を決めたらいいじゃないか」
年齢的に後継ぎを周りからせっつかれるだろう、と。
ごく当たり前の指摘が親友から飛ぶ。
子供の時から、周りから求められる通りにやってきた。それこそ五条家のために時間を犠牲にしてきた。五条家と連なる家門は多い。
当主として、それを背負っていかねばならない。
現に、僕への見合いの話はひっきりなしに来ている。仕事が忙しいからと断り続けるのも限界が近づいている。
「初恋をこじらせるとか、冗談にもならない年齢だ」
親友だからこそ、僕に言える台詞だと思う。
そんなに親しくない奴に言われたら、こちらの事情も知らないでと怒り、確実に半殺しにするだろう。
難しい顔をしていたのだろうか。眉間に皺が寄っていると、苦笑した傑から指摘を受ける。
「まぁ……ミラクルが起きて、夢野さんが悟を受け入れる可能性もあるだろう?」
好きな男より、安定した生活を選ぶ女もいる。
至極冷静にそう言い放つ現実主義者に頭が痛くなる。事はそう簡単に運ばない。
特にゆめのような腹の底が読めない女の前では。
「そういえば……傑、僕が言うのもなんだけど、そろそろこっちに帰ってくる気はないのか?」
“こっち”とは高専のことである。
「……まだ、自分の中で答えを見つけられていないんだ。悟もこの世から呪いを無くすなんて、馬鹿げていて壮大な理想だと思うか?」
「人間の数だけ呪いがあるからな。でも、オマエが助けたり、幸せにした人の数だけ呪いは減ってると思うよ」
困った人がいれば全国どこへでも馳せ参じる。それが今の夏油傑という男だ。
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