第2章 年末の男【五条視点】
【五条視点】
12月――師走も下旬に差し掛かった頃、五条家にとっては恒例の「あの男」がやってきた。
ある日の夕暮れ、屋敷の2階の部屋でゆめと年明けの使用人の帰省予定について話していた時だった。
コンコン、と微かに窓硝子を何かが叩く音がする。
「「もしかして」」
僕とゆめが同時に声を上げた時だった。
「悟、夢野さん、久しぶり」
大きな龍の呪霊の背に乗ったまま、傑が2階の窓を叩いていた。呪霊の唸り声が辺り一帯に響く。
窓を開けると、ヒュオッと冷たい風が顔にぶつかった。暗くなりかけている外は、雪がしんしんと降り続けている。
まさか、この天気の中を龍に乗ったまま突っ切ってきたのか、コイツは。
羽織っているコートは雪まみれ、頭にも雪が積もっており、傑の鼻先が赤いのを見たゆめが、いつの間にかタオルを手にして立っていた。
「夏油様、お久しぶりです」
「あぁ、夢野さんも息災かな?また悟のワガママに振り回されてる感じ?」
「お風邪を召されてしまいますので、まずはタオルで拭いて下さい」
「……つーか、傑。毎回窓から来るのどうかと思うんだけど」
来客らしく玄関から来いよ。
僕が悪態をつくと、「私と悟の仲だろ」と傑が鼻で笑った。
その瞬間、傑の鼻水が垂れたのを見たゆめが、今度はいつのまにか箱ティッシュを手に立っていた。
僕もついでに一枚もらい、黒いサングラスに付いた雪を拭き取る。
「夏油様のお着替えを用意したほうが良さそうですね」
「それはお構いなく。……ああ、これだ」
傑はゆめから受け取ったティッシュで鼻をかむと、格納型の呪霊の口からズルリと大きめのリュックとボストンバッグを取り出し、雪をはらってから窓から屋敷の床に降り立つ。
無造作に束ねている長髪から粉雪が落ち、室内の暖かい空気に触れて溶けていく。
そのまま傑が龍の呪霊の呼び出しを解くと、何もなかったように外に静寂が訪れた。呪霊操術の腕は健在のようだ。
「今回は随分と大荷物だな」
今年は荷物がひとつ多い。
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