第5章 春情【五条視点】★
そもそも、ゆめと恋仲になるまでの過程で色々とありすぎて、その後の展望の話し合いがゆっくりと出来ていない。
今思えば、よく何年も我慢できたものだと自分で自分を褒めてやりたい。でもそれはそれで良かったとも思う。
紆余曲折あったからこそ、恋人になってから構って欲しいなどと、こんな風に幸せな悩みが沸いてくるのだろう。
「でも、悟にしては、割と決着は早かったなっていうのが感想だね」
「あー……」
傑の言葉に同意するように、僕は曖昧なニュアンスの声を出した。
僕自身、ここまで来るまでにかなり時間がかかってしまった自覚があるからだ。
昔から五条家は名家故に、色々な思惑から好意を寄せてくる女は沢山居たが、恋愛感情というより執着心のようなものを感じ取って距離を置いていた。
その中で、媚びもしないし、実の姉のように接してくれるゆめは最初から特別な存在で、彼女が理想の女性像として子供の頃から染み付いていたものだから、他の女性とうまくいくはずもなかった。
「ゆめが特別な存在すぎて、逆に遠かったんだろうな」
「はいはい、ごちそうさま」
僕の言葉を聞いて、肩をすくめた硝子がグラスを置いた。
「とりあえず、これで悟のお悩み相談終了かな。どうしようもなくなったら、また私のところに連絡してくれ」
「夢野さん共々、夏油に何吹き込まれるか分からないから、私が代わりに行く」
「今日の硝子は、私に対して当たりが強くないか」
「いやいや、硝子は前から辛辣だよね」
硝子に至っては、ほろ酔いという酒量ではなかったが、テンションがほんの少し酔ってる程度だ。
僕の親友の背をバンバン叩きながら「夏油、二軒目付き合え」と、腕をグイグイ引っ張っている。
僕が「支払いは任せろ」と傑に目で伝えると、苦笑しながら頷いて、硝子に引きずられて居酒屋を出ていく。
かけがえのない友二人が去っていく後ろ姿を見送りながら、僕は改めてゆめへの自分の気持ちを再確認した。
ゆめを幸せにしてあげたい。そして、自分も彼女と共に幸せな人生を送りたい、と。
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