第5章 春情【五条視点】★
大切にしたいと思う反面、怖くて傷付けたくないとも思う。
自分がこんな風に思える存在がいるということ自体、信じられないくらいだ。
「……硝子は、悟が夢野さんを好きなのは知ってたんだっけか?」
「知ってた。五条が高専に提出する書類を実家に忘れた時に、夢野さんが届けに来て、五条が今までで一番嬉しそうな顔をしたのを見て、勘でピンときたよ」
まさかあれから10年も拗らせると思わなかったけどね、と。
呆れたように遠い目をした硝子に、僕と傑が半笑いになった。
「高専の頃はお前達二人共クズだったが、今は夏油はクズだとしたら、五条はヘタレだからな」
「ははっ、ひどいな。私のこと、そこまで言わなくても良いんじゃないか?」
「夏油がクズなのは本当だろ」
「傑……僕がヘタレ呼ばわりなのは庇ってくんないの?」
傑や僕と言い合い、再びケラケラと笑いながら酒を飲み切った硝子は、「焼酎、五合瓶あります?」と店員に声を掛けていた。
その姿を見ながら、彼女が言うように僕がヘタレなのは事実だと思う。
ゆめを傷付けることが怖いと思っているくせに、彼女に近付く男どもを牽制したり、自分以外の人間がゆめと話すことに嫉妬して独占欲を剥き出しにしている。
我ながら、なかなか面倒臭い性格をしている自覚はある。
「まぁ、五条がヘタレなのは夢野さんに限ってだし、それだけ大事にしてるってことでしょ?」
「そりゃ大事に決まってるでしょ、口説くのに何年かかったと思ってんの」
彼女の言葉に素直に返事をした。すると、硝子は満足げな表情を浮かべて焼酎の瓶を開けた。
そして、「でもさ」と言って続けた。
「五条の場合、溜め込んだものが大概とんでもないことになるから、夢野さんに構って欲しいって伝えた方がいいと思うけど?」
反論出来なくて、真顔になった。
結局、何年も想いを溜め込んで、体調不良の時に告白した挙げ句にゆめに心配かけて、病み上がりのまま彼女を押し倒して、欲のままに何度も抱いた。
傍から見たら、最低男の極みだ。
「夢野さんはどれくらいの頻度で悟とイチャつきたいのか、とか……その辺の擦り合せは今後必要だと思うよ」
そう言いつつ、傑がグラスに入りそうになった自身の前髪を指で弾いた。
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