第5章 春情【五条視点】★
僕の親に至っては、全てを任せるから必要な時に呼んでくれと放任主義も良いところだ。
「ゆめとはずっと同じ屋根の下で暮らしてたから一緒に暮らす上で特に揉め事もないし、結婚しても余計な親戚は屋敷内に入れないつもりだし、新婚生活はゆっくりと送れる」
「ふぅん、じゃあ……夜の生活も誰にも邪魔されずに解禁か」
ニヤリと笑って硝子がこちらを見た。
「……なに、僕とゆめの営みでも聞きたいの?」
思わず動揺した声が出た。
正直、硝子には恥じらいが欠けていると思う。
高専の頃も真顔で下ネタをぶっ込んでくるので、僕と傑の方がタジタジとした思い出がある。
そういうオープンなところが男友達と話しているようで、気楽なところではある。
僕の反応を見て、硝子はケラケラと笑った後、「いや、別にそういうわけじゃないけどさ」と言いながら、お猪口から酒を啜った。
「ただ、昔から五条は夢野さんのこと好きだったんだろうから、両思いの喜びもひとしおでしょ」
「まぁ、そうだな……」
高専の頃の僕は恋とは何たるかも知らず、自分の気持ちすら理解出来ていなかった。
ふとした時に見せるゆめの笑顔に、心の裏側が疼くような感覚はあったが、今思えばあれは完全に恋慕で、僕はゆめがずっと好きだった。
無意識に他の女性とゆめを比べては、彼女だったらこう言ってくれるのに……と勝手に期待しては、勝手に落ち込んでいた。
多分、彼女以上に好きになれる人間なんて現れないだろうという確信もある。この人しかいない、と自分の本能が言っている。
「ただ……正直、二人のことが少し心配ではあるね」
そう言って眉を下げたのは、向かい側に座っていた傑である。その言葉に僕が首を傾げると、ヤツは少し困ったような表情を浮かべた。
「君たちがお互いのことを想っているのを知っているけれど、二人ともお互いの出方を探り合う癖があるだろ?特に夢野さんは中々本音を言わない」
それは確かに、そうかもしれないと思った。
今までの人生で、誰かに対して本気で愛おしいと感じたことがなかったからこそ、どうしたら良いかわからなかったのだ。
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