第5章 春情【五条視点】★
確かにそうかもしれない。
僕は自分のことばかり考えて、彼女の気持ちを考えていなかったかもしれないと思い始めた。
それにしても、周りから見て、そんなに僕の頭の中がお花畑になっているのかと苦笑が洩れた。
僕が難しそうな顔をしていたからか、硝子は酒の追加を注文しつつ、こちらを見てフォローを入れてくる。
「まぁ、でも……これからもっとお互いの本音とか知っていけばいいと思うよ。少なくとも、旅先で女を捨ててくる夏油よりはクズじゃない」
「硝子、その言い方は酷くないか。ちゃんとお別れはその都度しているんだから」
硝子の言葉に、すかさず傑が反論しつつ、くくっと笑った。
「私だって、好きになった人には一途だし、相手を尊重して付き合っているつもりさ。ただ、その……時間の長い短いは恋愛に関係ないわけで……」
「夏油……堂々とクズ発言してるの気付いてる?」
「ん?私は博愛主義なだけだよ」
傑の話を聞きつつ、硝子が冷めた目をしながら、また酒を飲み始める。
二人のコントのようなやり取りを聞きながら、ボーッとしてメロンソーダを飲んでいると、急に傑がこちらに話題を振ってくる。
「ところで、悟と夢野さんはいつ入籍するんだ?」
「……えーと、今年の10月を考えてるんだよね。今は3月入ったところだし、それに向けて、そろそろ準備を始めるつもりだよ」
10月は気温も気候も安定しているし、結婚式を行うにはうってつけだ。
ゆめと二人で決めた結婚式の準備について思い出しながら、答えた。
なにせ、僕が好き勝手しているとはいえ、五条家も御三家だ。
当主になった際に、屋敷に居候していた親戚を追い出した。おかげで使用人たちに部屋を与えることも出来ている。
無駄に広い五条家の屋敷で、まずは結納を取り行う。それから半年後に結婚式を迎えるため、本当に乗り越えるべきことが多い。
「ゆめの親御さんとは前々から顔を合わせていたから、両家の仲は問題ないんだけどね」
彼女の御両親からは「本当にこの娘でよろしいのですか」と、何度も聞かれた。
幼い頃から、ゆめが僕にとって何にも代え難い女性であることを伝えると、感極まった二人に泣かれてしまい、ゆめが隣で小さく息を吐き出した。
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