第5章 春情【五条視点】★
久しぶりに行われた飲み会。
長年続いた僕の片恋ストーリーは、あっさりと幸せな結末でエンドロールを迎えた……と言いたいところだが、現実はそうもいかず、両思いになった後の悩み相談のために、僕は傑と硝子に居酒屋へ招集をかけた。
「……で、悟は夢野さんと両思いになったんだろう?何が不満?」
片手で僕のコップにメロンソーダを注ぎながら、傑は頬杖をついていた。
「不満も何も、五条が一人で悶々と悩んでいるだけだろうな、絶対」
言葉の切れ味が鋭い硝子が、日本酒を呷りながらツマミの枝豆を口に放り込んだ。
そして、僕は。
「ぜんっっぜん、ゆめが構ってくれない」
自分とゆめの距離感と温度差に戸惑っていた。
もちろん、お互いに好きだと言い合うし、体も重ねる。
僕としては、プロポーズも受け入れてもらったし、周りにも婚約を宣言したので、二人きりでいる時はなるべくイチャイチャしていたい。
一方のゆめは、これからが忙しくなるのだからと、仕事をこなすスピードがかなり上がっている。
「悟様、結婚というのものは、前後がかなり忙しいのですよ。この状態で私が身重になったら、五条家の雑務が大渋滞を起こします」
と、かなり地に足がついている思考。
最近の彼女は手順書の作成や下の者たちの指導にも熱を入れており、僕は執務室で一人で書類作成をしていた。
ゆめの気を引くために出来の悪い当主を演じる必要はなくなり、僕も今までの倍速で仕事をこなすので、彼女から完全に放置されるようになった。
「そりゃ、当たり前だよね」
話の途中で、硝子がツッコミを入れてくる。
「五条は目の前しか見てないけど、夢野さんは一歩も二歩も先を見ているだけの話だよ」
お前の考えが足りていない、と言いたげな視線を向けられ、うっ、と言葉に詰まった。
「御三家にとって、結婚となると一大イベントじゃないかな。しかも表向きが当主の悟が女中に手を出したってことで、好奇の目も周りから注がれるし」
「夢野さんに辛いことはないか聞いた?既に五条家の親戚とかから、お祝いとともに嫌味がぶつけられてる可能性もある」
二人から至極真っ当な言葉をストレートにぶつけられ、ウウッと唸りつつも、更に僕の方が追い詰められる。
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