第4章 愛しき余香【五条視点】★
「そういえば悟様、私……まだ言われていませんが?」
グイッと掛け布団を引っ張りながら、上目遣いでプロポーズをねだる最愛の人に頬が熱くなる。
さっきはあんなに愛を囁いたのに、急に緊張して、高鳴る鼓動が何故かむず痒い。
「ゆめ」
名前を呼び、彼女の手の甲に唇を寄せる。
ゆめが同じベッドで寝ているこの状況の嬉しさで、勝手に頬が緩んでしまう。
近いうちに、この細い指に一番似合う指輪を買ってあげよう。
左手の薬指に指輪をはめて、純白の姿で、僕だけに永遠を誓って微笑んで欲しい。
「僕と結婚して、一生隣に居て下さい」
ゆめと目を合わせて求婚すると、数秒間ぼうっとした後に、彼女の目尻にじわっと涙が溜まる。
ぐずっと鼻をすする音が聞こえて、こちらも苦笑する。
「一人だけ幸せそうなお顔をして……本当に仕方のない方ですね」
「……ねぇ、結婚しても、頑張った日はゆめから褒めてほしいな。ゆめに褒めてもらえたら、当主としてももっと頑張るから」
大好きなゆめからのご褒美が欲しいのだと、今後の要望を口にして彼女の手に鼻先を擦り付けると、再度困ったように彼女は優しく微笑んだ。
「手のかかる御当主様、今後もよろしくお願いします」
事実上のプロポーズ承諾に僕が軽くガッツポーズをすると、ゆめがクスクスと笑うので、その仕草が愛くるしくて、また腕の中に閉じ込めて抱き締めた。
少し肌寒い部屋の空気に、ゆめも熱を求めて僕の体へすり寄ってくる。
僕は君がいないと弱くなるけど、そばにいてくれたらもっと強くなれる。
そんなことを考え、幸せを噛み締めながら、二人で眠りに落ちた。
次の日、ゆめは屋敷へ帰っていった。
僕は風邪で何日か休んだため、しばらくは溜まった任務の消化であちらに帰れそうにない。
頑張るためのお別れのキスをお願いしたら、恥じらいながら唇に触れるだけの口付けをゆめからもらえたので満足だ。
一人、布団と枕に残る彼女の香りを嗅ぎながら、次に会った時はゆめはどんな顔をするだろうかと今からドキドキしてしまう。
布の余香が消える前に、早く彼女に会いたい。
愛しき余香 END.