第4章 愛しき余香【五条視点】★
医務室から自分の部屋へ戻ると、ゆめがテーブルの上に物を広げて、屋敷へ戻るための荷造りをしていた。
思っていたより長居してしまったから仕事が溜まってると、軽い嫌味を口にしていた。
それすらも今は可愛らしく思える。
ふふっ、と笑みが込み上げてきた。
「ゆめ」
名前を呼ぶと、彼女が反射的に顔を上げてこちらを見た。
その隙をついて、油断していた無防備な唇に僕から口付けた。
数秒、触れるだけで離れた。
純粋に彼女の反応を見たかった。
「ねぇ、ゆめ……帰る前に、あれの返事は?」
目隠しを下げて見つめると、みるみるうちに彼女の頬と耳が赤くなった。
パッと下げられた目線。絶対に目を合わせようとしない。歳上なのに、その少女のような反応は、更に男を煽るだけだ。
「僕のことは嫌い?」
我ながら卑怯な聞き方だと思う。
仕えている身の彼女は、易々と僕を嫌いと言えない立場。だが、本当に心から嫌っているなら、キスした瞬間に拒絶されていただろう。
困ったように首を振るゆめに、良かったと笑んで見せる。
僕が顔を近づけると、彼女の体が緊張するのが伝わってきたけれど、構わず腰に手を回して再度口付けた。
食むように何度か甘噛みしてから、ゆめのやわらかな感触を確かめながら唇を重ね、軽く吸い付いた。
熱い吐息が洩れ、薄っすらと隙間が開いた瞬間に舌を侵入させる。
「あ、ふぁ……ん、んぅ……」
いつもと違う、好きな人の鼻にかかる甘い声が頭を痺れさせる。
頑なな態度を見せるかと思えば、受け入れてもらえたので、困惑して狼狽える彼女の舌を緩くさらって、唾液ごと搦め捕る。
ゆめが小さく息を潜めた。
舌先で上顎を撫でながら、ぬるぬると舌が擦れ合う感触に、ぞくぞくと感じ入ってしまい、眩暈がしそうだ。
「はぁ……っ、ゆめ」
一度顔を離して、濡れた瞳で視線を交わす。
息が乱れてとろんとした目のゆめの表情を認めて満足し、彼女の耳裏から顎にかけて指でなぞって愛撫すると、華奢な肩が竦められ、小さな声が洩れた。
彼女の首に顔を埋めて唇を滑らせると、ギュッと僕の服を握りしめるゆめの手に力がこもる。
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