第4章 愛しき余香【五条視点】★
たまに見せる微かな笑みを向けられた時は、胸が熱くなるほど嬉しい。
ゆめが口酸っぱく注意するのも、厳しい指摘も、すべて僕を思ってのことだと知っている。
一番上の立場になると、間違った言動をしても、周りは当主の僕を恐れて何も言わない。
だから、真っ向から正してくれるゆめも、傑も、硝子も貴重な存在だ。
いつも僕を支えてくれる、さりげなく思いやり溢れる温かさに触れる度に、彼女に出会えて良かったと思う。
それを失うなんて耐えられない。
重だるい体を起こし、ベッドのすぐ横の椅子に座っている彼女を抱き寄せる。
だが、同時に目の前がぼやけて、体がぐらついた。
情けなくもゆめに体を支えられる形になってしまい、呆れを含んだ彼女の声が聞こえた。
「とりあえず休んで下さい。私は勝手にどこかに行ったりはしませんから」
子供の時のように、あやすように背中をさすられる。
これ以上彼女を困らせるのも本意では無いので、渋々ゆめから体を離して、ベッドに大人しく戻った。
告白の返事は熱が下がってからだと言われ、それも致し方ないと思いながらタオルケットを被り、掛け布団を引っ張る。
ベッドの端に置かれた彼女の手をしっかり握って指を絡め、どこにも行かないと再度約束させた。
「大丈夫ですよ」
そう言った、穏やかなゆめの声音に安心する。
表情には出ていなくとも、長年の付き合いで、声の調子で彼女の感情の機微が解るようになった。
ゆっくりと細い指が僕の髪を梳くように撫で、熱をもつ頬に触れた。
昔、同じように風邪をひいて、駄々をこねて彼女にそばにいてもらった子供の時を思い出す。
彼女の手が少し冷たくて心地好くて、もう少し触れていて欲しいと願いながら、僕は瞼を閉じた。
結局、完全に熱が下がったのはそれから丸2日経った後。
夕方には平熱を確認して、硝子には「明日からの復帰で上に伝えておくから」と言われた。
医務室を出る際に、ゆめとゆっくり過ごしたらどうかとニヤニヤしながら煽られた。
そうだった。コイツにも僕の想い人は誰なのか、高専時代からバレてるんだったと内心汗をかきながら、僕は無言で頷いた。
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