第4章 愛しき余香【五条視点】★
もう、せき止めていた感情が溢れて止められない。
向こう側を向いていて表情が見えずとも、耳を赤く染めて縮こまったままプルプルと震えるゆめを見ることが出来て満足だ。
「ゆめ」
少なくとも嫌われていない様子の反応に、嬉しくて心がむずむずしてくる。
胸の奥が切なくて、押し込めていたものが弾けてしまったような勢いのまま、何度も彼女の名を呼ぶ。
呼ぶたびに、甘くて幸せな気分になるから不思議だ。
「ゆめ……本当は明日も、明後日も、10年後も、もっとずっと先も、ゆめと一緒に過ごしたい」
“僕は、君がいないと生きていけない”
熱に浮かされているとはいえ、その言葉は切り札のような気がして、惜しむらくは伝えるのは今ではない。
言葉をグッと喉の奥に押し込んで、更に彼女の体に回した腕に力を込める。
「いつも傍にいてくれてありがとう……ゆめが好きだよ」
僕がそう告げた瞬間、彼女がハッと息を呑んだのが伝わる。
告白への返事はない。けれど、この瞬間だけは、か弱く見える肩が小刻みに揺れていた。
腕の中で微かに鼻を啜る音がして、声を殺して泣いているような気配がした。
望まずとも泣かせてしまったかと後悔しつつ、再度愛を耳元で囁く。
好きだよ。
ゆめ以外、他に何も要らない。
好きだよ。
好きで、好きすぎて、苦しいくらいだ。
きっとこの先、
ゆめ以上に想える女性は現れない。
気持ちを伝えた後、朦朧として揺れる視界で、ゆめの後ろ姿の輪郭がぼやけていく。
興奮し過ぎて、また熱が上がってしまったかもしれないと自嘲しつつ、彼女の匂いに包まれ、幸福の余韻に浸ったまま僕はフッと気を失った。
目が覚めると、目の前にパステルカラーが広がっていた。
それがゆめの着ていたカーディガンだと気付くまで数秒かかった。
寝ぼけ眼で好きな人の匂いに誘われるまま、ふわふわの生地のそれを引き寄せ、顔を埋めて幸せな気分を堪能していると、
「悟様、まだ寝ぼけてます?」
と、馴染みの顔がベッドサイドから覗き込んできた。
夢じゃないよな、と。
思わず手を伸ばしてゆめの頬をペタペタと触ると、なめらかな肌が熱を帯びて、ほわっと桃色に色付く。
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