第4章 愛しき余香【五条視点】★
次に覚醒した時、誰かの話し声が聞こえた。
熱は少し下がったのか確かめようとして額に手をやると、冷たいタオルが乗せられていることに気付く。
「あ、五条が目を覚ました」
白い天井を背景に、ぼんやりした視界に硝子とゆめが映り込む。
うわ言のようにゆめの名を呼ぶと、いつものように返事をしてくれて、風邪で弱気になっていた心が少し元気を取り戻すのを自覚する。
立ち上がれるか硝子から問われ、億劫だが、黙って軋む身体を起こした。
無表情のゆめの口から、寮に戻るか、家に帰るか選択を迫られる。
寝起きで思考が留守になっている頭を必死に動かし、寮で寝てることを選択して、ゆめに支えられながら医務室を後にした。
「やはり家に帰りませんか」
道中、ゆめから提案を受けるが、彼女と完全な二人きりのチャンスなどそうそうない。
「とりあえず横になりたい」
と、伝えて、体に密着する彼女の体温を感じながら、早く早くと駄々をこねてみる。
仕方のない人ですね、と。
どこか呆れたニュアンスを含む声を耳にしながら、揺れる髪から漂うゆめの匂いを感じて、心地好さと安心感で満たされる。
部屋に着いてベッドに座ると、ゆめが僕の体から手を離し、踵を返した。
「今、着替えをお持ちしますね」
完全にいつもの冷静な判断が鈍っていて、本能だけで彼女の気配と香りだけを求めて手が伸びる。
気が付くと、立ち上がって目の前の細い腕を引っ張って抱き締め、ベッドに倒れ込んでいた。
危ない、と彼女から鋭い声でたしなめられた。
その言葉を無視して、腕から抜け出そうと藻掻く華奢な体を背後から無理矢理に抱き込んで、横になる。
「ゆめ、このままでいて」
必死に懇願しつつ、胸のあたりにあるゆめの頭頂に唇を押し付けてキスすると、ビクッと肢体が硬直するのが分かる。
「さと、る、さま……」
珍しく動揺して上ずる可愛い声と、至近距離で手に伝わってくる温かくてやわらかい彼女の感触に、どうしようもなく気持ちが昂ってしまう。
夢にまで見た愛しい人の体を弄って抱き寄せて、頬ずりし、しなやかな髪越しに口付けを繰り返した。
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