第4章 愛しき余香【五条視点】★
薬を飲むために一度身を起こし、ボーッとする頭で薬の箱を開けて説明を見ながら、震える手でペットボトルの蓋をひねる。
「……またゆめに怒られそうだな」
水を一口含んで、心地良い冷たさに目を細めた。
今日くらいは彼女に心配されたいものだなと思いつつ、不味い粉薬を飲み込んだ。
甘党には到底優しくない味に、思わず眉間に皺が寄る。
そういえば、ゆめはたまに毒の粉を少量舐めて訓練していた。
初めて見た時は驚いて止めたが、これが仕事だといって平然としていた。
側仕えである以上、主を守るために、あらゆる毒に精通していないといけないと真顔で告げてきた。
毒に強いが、命を削る。
だから夢野家は短命が多いのだと、静かな口調で淡々と話した彼女に、僕は気の利いた一言も返せない。
彼女は気高い。
だから、全てから手を引いて僕と結婚して欲しいとは軽々しく言えなかった。
「いや、言い訳だな……」
単に、ぬるま湯のようなこの関係を脱するのが恐いだけだ。
年明けに傑が旅立つ前に見送りをした際に、意味深な表情で、
『夢野さんに想いを伝えるなら急いだ方がいい』
と、ゆめに聞こえないよう傑から耳打ちされた。
併せて、何となく良い予感がしないからと忠告を受けた。ゆめとの会話で、アイツなりに何か感じたのだろうか。
だとしても、傑の言葉が心に引っかかったまま、告白するタイミング一つ掴めずズルズルと1ヶ月が過ぎようとしていた。
色々なことを堂々巡りで考えているうちに、自然と瞼が重くなってくる。普段薬なんて飲まないから、テキメンに効いて眠くなってきた。
「ゆめ……」
今日は何をして彼女は過ごしているのだろうか。
そんなことを考えながら、視界が狭まってゆっくりと沈んでいく意識に抗えずに目を閉じた。
→