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【呪術廻戦】御当主様は褒められたい【R18】

第3章 花氷【夢主視点】



「まずは、長年横領していた女中頭の首を切ったから、後釜にゆめを据える」


やってくれるね、と有無を言わせない響きを伴った命令。


「……拝命しました」


そこまで言うなら、新たな御当主様のお手並み拝見といこうか。

受命に、うやうやしく頭(こうべ)を垂れる。

そこで、悟様がプハッと息を吐き出してから、息を深く吸い込んだ。


「はぁーあ……みんなの前では立派にするからさ、ゆめの前では今まで通りでいい?」


さっきの緊張感は何処へやら。

糸が切れたように、へにゃっと相好を崩す彼の様に、心の中のやわらかい部分がじわりと熱くなった。

無防備で緊張感が一切無い、この彼の笑みを見ることができるのは、私の他にいるのだろうか。

フッ、と自ずと口端が上がるのを自覚する。


「今まで通りに我儘が過ぎると、私に寝首をかかれるかもしれませんよ」

「えー……お、お手柔らかに……」


私の返答に、悟様がしどろもどろになるのを見て、このやり取りはあと何年続けることができるかと思いながら、二度と来ないこの瞬間を心に刻みつける。


「悟様」


おそらく、私はあなたが好きです。

この胸に込み上げる温かさが愛ではないというのなら、私があなたに抱いているこの感情の説明がつかないのです。


「一刻も早く一人前の御当主様になって下さい」


お互いの関係がどのようなものであっても、あなたの幸せだけを願っております。


「私の仕事が増えすぎると倒れてしまいます」


あなたの平穏を守るためなら、あなたが望まなくても、いくらでもこの身を粉にし、手を汚すでしょう。

家業のために、疾(と)うの昔に罪悪感など捨てたけれど、唯一、あなたの悲しむ顔を見る時だけは、凍ったこの心が軋んで痛む。

あなたの笑う顔を見る時だけは、この無機質な心に血が通う。

一族の道具として散るはずだった私が、人の心を保っていられるのは、全てあなたのおかげ。



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