第3章 花氷【夢主視点】
悟様が最近は調子に乗って稽古をサボり気味だと聞いた。
自分の立ち位置を理解し、早急に強くなってもらわないと困る。
四面楚歌になった時、側仕えの死体が足元に何体転がろうと、彼一人でも生き残ってもらわねば。
結局、二人とも暴れに暴れ、全身土埃に塗れ、庭の地面が抉れ、仲裁に入った当時の女中頭から大目玉を食らった。
だが、この出来事が悟様に火をつけた。
たかが女中の私を瞬殺出来なかったのが癪に触ったらしい。毎日欠かさず稽古を積み、呪力コントロールも術式の理解と応用も、めきめきと上達していった。
「……なぁ、ゆめ」
「なんですか、悟様」
「あのさ、俺の髪って変?」
ある時、帰ってきて開口一番に聞いてきたことが髪のことだった。
唐突過ぎたので、順を追って話を聞くと、近所の子らに「白髪は年寄りだからオマエの髪はおかしい」と言われて、からかわれたらしい。
「目も、なんでみんなと違うんだよ……」
無下限呪術を相伝した者は白髪になる。
六眼を生まれつき持てば青い瞳になる。
それは五条家の血を引く、正統な誇り高き証。
「オマエは拾われてきた子だろうって言われて……こんなに厳しい修行させられるのも、俺が本当の……」
そこまで言って、悟様は口をつぐんだ。
本当に難しい年頃だ。五条家の血を引く証などと、大人の事情を話しても不安は解けないだろう。
「悟様、こちらへ」
正座を崩して横座りし、私は自分の膝をポンポンと手のひらで叩いた。
彼は瞳をパチクリとさせながら、おずおずと私の膝に頭を載せてくる。
「周りと違ったって良いでしょう。悟様だけの個性ではありませんか」
「嫌だ、俺も黒い髪が良かった」
頬を膨らませ、いじける悟様の髪をゆっくりと撫でる。やわらかく白い髪を指で梳くと、くつろぐ猫のように、彼の目が細められる。
「悟様の髪、白くて綺麗だと思いますよ」
安心させるために、顔を覗き込んで笑ってみせると、驚いた様子の彼が目を見開いた。
「ゆめって笑えるんだな」
「……はい?悟様、喧嘩売ってますか」
家業のせいで、感情を面に出さないことを日常としてきた。
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