第3章 花氷【夢主視点】
その代わりに習い事や教養、呪術の訓練で管理された人生を送っていたため、自由はない。
ご友人とも好きな時に遊べず、どこに行くのも五条家の誰かと一緒。人格が歪むのも無理はないなと思った。
甘やかして育ててしまったと悟様の御両親から聞いていた。
怪我しない程度であれば厳しく接しても構わないと事前に許可を頂いた。
今までの世話係は傍若無人な坊ちゃまに手を焼き、次々とその役目から降りていたと噂は事前に耳に入っている。
「……次期御当主様は挨拶もまともに出来ないのですね」
「なんでオマエに挨拶する必要がある?生意気な奴だな」
自分も術師で、この年齢でもそれなりに場数を踏んで死線を越えてきた。
家業のために鍛えてきて、体力にも自信がある。
こんなクソガキ一人、どうということはない。仕えるに足る人材か、確かめようと思った。
無駄に広い庭に降りて、挑発するように指先で彼を誘う。
「では……早速、呪術で手合わせと参りましょうか。生意気な世話係に負けたとあっては末代までの恥ですね?」
「ゆめだったか?俺に武器を向けるなんて何を考えて……」
「挨拶一つもまともに出来ない、とんだクズが当主になりそうなので、これで強くもなければ仕える価値は無いな……と思っただけですよ」
悟様のご両親にも許可頂いていることを伝え、彼の脅しにも動じずに私は武器を構えた。
無表情でじっと見据えると、今までに無いパターンだったのか、彼はたじろいだ。
「無下限呪術を持っていようと、六眼を持っていようと、コントロールが未熟であれば敵ではありません。呪力が尽きるまで攻撃するだけです」
まだ彼は覚醒していない。
無下限呪術も常時発動しているわけではない。
六眼も呪力の流れが詳細に視えていても、予想に反する動きをされたら虚を衝かれるだろう。
なにせ、食うか食われるか、互いの存亡をかけて命を削り合うほどの実戦が少ない。
半端な術師では彼に勝てないだろう。
けれど、腕の立つ呪詛師であれば別だ。
しかも、今代の御当主様から聞いていた話では、小競り合いが絶えない五条家では、身内がいつ敵に回るか分からないときたものだ。
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