第3章 花氷【夢主視点】
自分も同じ考えだと私に同調する。
「でも、機械的に割り切らないのが悟の良いところだ」
そんなこと、貴男に言われなくても分かっている。
あの方は簡単にものごとを割り切れなくて、悩んで悩んで、苦しみながら答えを掴んでいく。
その様をいつでも傍で私は見てきたという自負がある。
結局は、あの方は性根が優しいのだ。
当主という立場上、非情な判断を下さなければならない時もある。
頭を抱えながら、一晩後悔していた姿を見たこともある。
切り捨てなければならないもの、護るべきものの取捨選択を常に迫られる立場でもある。
「悟様はいつまでも子供のような御方ですから、手がかかります」
「そうかい?悟が駄々っ子になるのは夢野さんの前だけだ」
「いい加減に世話係を離脱したいのですが、未だにお許しを頂けていないのです」
「うーん?多分、一生無理だと思うよ」
ふう、と私が溜め息を洩らしたところで、夏油さんの楽しそうな笑い声が重なる。
廊下を夏油さんと話して歩きながら、少し昔を思い出してしまった。
悟様の世話係の内の一人になったのは、彼も私もまだ子供の時だった。
私とも3歳しか違わず、悟様の御両親より指名されたが、わざわざ歳が近い……しかも異性である者を選んだのか。
なぜ自分なのか理解出来なかった。
古今、私の一族は五条家に仕えてきた。
諜報活動や裏の汚い部分を背負ってきた、謂わば影のようなもの。
五条家にはそういった役割で連なる家門がいくつかあり、使用人の場合重要なポストに就くことも多い。
家庭教師から様々なことを習う御三家とは違い、義務教育は済ませておけというのが夢野家のルールだった。
もともと、中学卒業後から使用人として五条家に住み込みで働く予定だったのを繰り上げ、手荷物一つで五条家の門をくぐった。
当時まだ中三になったばかりだったため、五条家から学校へ通った。
「はぁ?この雑魚が世話係になんの?」
悟様にお会いした瞬間に理解した。
こいつは紛うことなきクソガキである、と。
無駄に顔が整っている。未来の次期当主であることが決まっているため、大人もおべっかを使う。名家で金もある。
→