第2章 年末の男【五条視点】
目隠しを取ると、瞼に冷たい感触。
仰ぐと、静かに舞う粉雪が吐き出した息に溶けた。
今夜は雪の予報だったな、と今朝のニュースを思い出す。積もり始めている新雪に足跡をつけながら、玄関へ向かうと灯りが点(とも)る。
「悟様、おかえりなさいませ」
扉を開け、いつもの光景に思わず頬が緩む。
下げた目隠しで口許を隠し、立っていたゆめに小声で「ただいま」と伝えると、奥から傑が姿を現した。
「待ってたよ」
にこやかに笑う親友と、玄関に集まってきた使用人たちが笑顔でウンウンと頷いていた。
何事かと、思わずポカンとしていると、
「働いている御当主様を差し置いて、のんきに夏油様の蕎麦は食べられないと皆が言い出しまして……」
そう言いながら、ゆめが視線を使用人の皆へ移す。
「え、なに、僕のこと待ってたの?」
「さっきからそう言ってるだろう」
僕に聞き返されて呆れ顔になった傑を再度見遣ると、黙って頷かれた。
じわっと熱くなったのは目頭か胸の内か。急いで着替えてくる旨を伝え、ゆめを連れて自室への廊下を歩く。
「悟様、今夜は氷点下になるそうです」
「……融雪剤を撒かないといけないな」
「今夜中に致します」
窓から外を覗くと、先程よりも雪の厚みが増している。自室の扉を開けると、ゆめが適当に見繕って着替えの私服をソファに置いてくれる。
では後ほど、と頭を下げた彼女が、去り際に思い出したように口を開いた。
「……夏油様が『大晦日は高専時代みたいにゲームしながら夜ふかししないか?』と言っておられました」
「ははっ……望むところだと伝えておいて」
「かしこまりました」
傑は三が日が過ぎたら、新年早々に再び旅に出るらしい。それまで、アイツの我儘にも付き合ってやるか。
ゆめがいて、傑がいて、慕ってくれる使用人たちもいる。皆が居てくれる嬉しさに、自然と口角が上がるのを自覚してしまう。
思ったより、今年の年末は温かい。
年末の男 END.