第2章 年末の男【五条視点】
非術者のために呪術師が犠牲になることへの意義と不満と、先が見えない将来への不安。
それらに悩んだ時期もあった。なんだかんだ言っても、結局、コイツは弱き者に手を差し伸べる奴だった。
「……だけど、お祭り男として新聞に紹介されるのはどうかと思う」
「ふふ……しょうがないだろ、地方ばっかり顔を出していたらそうなってしまったんだ」
人と触れ合うのは楽しいよ。
そう言って満足そうに笑う彼に、
「傑は良い生き方をしていて羨ましいよ」
思わず、僕の本音がこぼれた。
先程片付け忘れた、デスクの上に転がっているペンを指先で弾きながら親友を見遣る。
含みを持たせる言い方が引っ掛かったのか、傑の切れ長の目が、複雑な感情を孕んで細められた。
「悟だって、五条家の人たちや高専の生徒を守っているじゃないか。心から信頼できる女性も傍らに居てくれる。私は羨ましいよ」
隣の芝生は青く見えるし、無い物ねだり。
結局はそういうことなんだろう。
根無し草の傑は問題解決を常に1人で行わないといけないが、いかなる時も自由だ。
僕は祓除の任務以外では1人の時間がほぼ存在しないが、衣食住も保証されている。
お互いがお互いを羨ましく思うも、きっと自分が選んだ道に後悔はない。言いたいことも言い合える、それでいい。
それから1時間ほど、どうでも良い話題で2人談笑に花を咲かせた。
その後、夕食を取りながら、傑の今年の葉書に書いてあった「蕎麦屋に弟子入り」のあらましを聞いた。
「蕎麦屋の息子さんが蒸発してしまってね。蕎麦屋の大将がひどく落ち込んでいるところに、私がたまたま蕎麦を食べようと入店したのが始まりだった」
気落ちして店を畳もうとしていた蕎麦屋の店主に、傑が蕎麦打ちの技術を習いたいと申し出た。
こんな美味しいざる蕎麦を廃れさせるなんて、と熱く語り、他の蕎麦屋のスタッフの応援もあり、店主がやる気を出した。
傑が住み込みで蕎麦打ちを習う傍ら、季節の野菜やキノコも加えて季節限定メニューのアイディアを出して開発して売り出すと、寂れていた店に客足が戻り、現在は地元にも愛される賑やかな蕎麦屋として繁盛している。
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