第6章 二人、同じように
只今、昼休み。
「見れば見るほど、えっぐいよな」
「わざわざ隠してるのを見ないでくれる?」
楽しそうに場地が、制服の下に着て来たタートルネックを軽く捲る。
言わずもがな、私がこうして首を隠さなければならない理由は、もちろん春千夜の噛み跡だらけだからだ。
この学校が、制服自由な場所でよかったとしみじみ思う。
「おい場地。気安く触んな、殺すぞ」
「春、威嚇しないの」
反対側に座る春千夜を宥める。
「まぁ、噛みつきたくなるのは、分からなくもねぇけどな」
犬歯を見せながら笑う場地。この歯で噛まれる女の子は大変だろうなと考えて、首の噛み跡が痛んだ気がした。
「それ聞いたら、私は相手が春でよかったとつくづく思うわ」
「んだ、そりゃ」
マスクを顎までズラし、フッと笑う。
私はこの顔が好きだ。
春千夜の肩に頭を乗せると、その上に自然と春千夜の頭が乗せられる。
サラリと綺麗な髪が、頬に触れる。
触れると、心が温かくなるのを感じて、幸せな気持ちになる。
少し顔を上げると、春千夜と目が合う。
最初の頃とは違って、柔らかく笑ってくれるようになったなぁと、改めて思う。
「何ひゅんだよ」
頬を軽く摘んでみると、春千夜は不服そうな顔をするけど、振り払ったりはしない。
「美人だよね……綺麗なのがムカつく」
「あ? お前のが美人だし、綺麗だろ」
頬を摘んでいた私の手を絡め取り、唇に持って行って平然と言ってのけるのが、妙にくすぐったくて、頬が熱くなる。
「お前等さぁ……イチャつくならよそ行けよ」
「……そうだな……そうするか」
「へ? わぁっ!」
場地の文句に、春千夜が突然立ち上がって、私は担がれた。
何でこういう運ばれ方をされるのか。
「春っ! パ、パンツ見えちゃうから、これやめてってばっ!」
「……ちっ、わーったよ」
余程私のものが他に見られるのが嫌なのか、こういう言い方をすると春千夜は、私の意見を聞いてくれるから助かる。
降ろされてホッとしていると、私の体が再び浮く。次は横抱きにされる。俗に言うお姫様抱っこだ。
「私が自分で歩くっていう選択肢はないわけ?」
「うっせぇ。お前は俺の腕の中にいりゃいいんだよ」
何も言えなくなってしまった。