第5章 加速、そして……
〔春千夜side4〕
ゆっくりと、瞼が開く。
眠そうな目が、俺の姿を捉えた。そして、ふにゃりと笑う。
「ふふっ……春千夜だぁー……」
寝ぼけているのか、嬉しそうに締りのない顔で笑うに、俺まで釣られてしまう。
髪を撫で、そのまま頬まで手を滑らせると、擦り寄るみたいに身を寄せて来る。
「春千夜……」
「ん? 何だ?」
「私、春千夜の傍にいて、いいのかな……」
突然の問いに、撫でていた手が止まる。
のしてくる質問の意味が分からず、自然と眉間に皺が寄るのが分かった。
「何が言いたい?」
「……ほら、私、春千夜の好意に甘えて、気持ちも定まらないままだし……」
は気づいていないのか。自分の気持ちに。
俺はあんまり気が長い方じゃない。そんな俺が、こんなに事をゆっくり進めるのも、大切にするのもだけだ。
「いていいから傍に置いてんだろうが。俺が好きでもねぇ奴なんて、ハナから相手にしねぇし、傍に置くわけねぇだろ。つまんねぇ事聞いてんじゃねぇよ」
「でも、ほら……他にいいなとか思うかも、しれないし」
場地の言っていた女の事を、やたら気にしているようだ。
「お前、いい女の癖に無駄にネガティブだよな。自分に自信ねぇのかよ」
「私は……いい女じゃないよ……。私がモテるのは、ただ体が目当てか、ただ私を隣に置きたいだけの人ばっかりだし」
拗ねたみたいな顔をしたが珍しくて、口元がニヤつく。
「まぁ、俺等の年頃はヤレりゃいい奴ばっかだしな」
「愛して欲しい人に愛されなきゃ、意味がないのにね……」
自傷気味な笑みを浮かべたが、呟くように言った。
「俺は愛してっけど?」
「え……」
初めて聞いたみたいな顔で驚くに、触れるだけのキスをする。
「泣いたって?」
「なっ!? 何でっ……場地……」
髪を撫でると、毛布に鼻まで隠して埋もれる。
「俺ずっと好きだって言ってきたよな?」
「そう……だけど……」
どうしてこうも自信なさげなのか。普段同年代の中では大人っぽい方だとは思ったが、中にこんな子供みたいな部分が隠れていたとは。
「女に俺が自分からこうやって触んのはお前だけ」
「ん……」