第3章 陰抓楓乃、死にました
「……早く退きなさい」
相手に隙を見せないよう、しっかりと目を合わせる。
ピリピリとした空気がじんわりと頬を掠めた。
すると、男は余裕綽々といった様子で小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「……お前、馬鹿だな」
「はあ?」
……馬鹿って何さ。
ムッと口を尖らして、男を見据える。
薄暗い中、男が憎たらしい笑みをたたえるのが見えた。
「ヒーロー気取りか知らねぇけど、俺の顔見ちまった以上その女もお前も殺すしかねぇんだよ」
俺の顔見ちまった以上……という事は、この女の人もこいつとは何の縁もないのだろうか。
男の言葉に、私は呆れてため息をついた。
男から笑顔が消える。
「あんたこそ馬鹿じゃない?私の持ってるこれが見えない?」
そういい、木刀を少しだけ揺らす。
「知ってる?竹刀でさえ、*突きくらったらチョー苦しいの。
私全国試合とか結構いいとこいっててさ。だから喉元とか目ん玉とか突き刺しちゃうかもね。
そしたらあんた……」
ジリッと砂利をすって一歩進む。
今度は私がニヤリと笑ってみせた。
「死ぬかもよ♡」
*突き……剣道で相手の喉元を突く技