第3章 陰抓楓乃、死にました
曲がり角の死角が開き、もう一つの人影が現れた。体格や身長を見て男のようだ。
いや、そんなことはどうでもいい。問題はそいつが手にしている物だ。
それはギラリと月明かりを反射し鈍く光っていた。
だんだんと暗闇にも目が慣れ形がはっきりと見えるようになった私は、それが何かすぐにわかった。
――刃渡りの長い包丁。
私は咄嗟に二人の間に割って入った。
二人の間には結構間が空いていて、私は女性の方にピッタリよりそうように前に立つ。
「……あん?なんだてめぇ」
目の前にいる男が、包丁を構えたまま低い声でそう言った。
後ろの女性は逃げ回っていたのか、息を乱している。
私は男の言葉を無視し、素早く*竹刀袋に結いている木刀を取り出し、鍔と*鍔どめを装着した。
木刀をしっかりと握り、私は目の前の男に向かって口を開いた。
*竹刀袋……竹刀を入れる袋。鍔や鍔どめも収納可
*鍔どめ……竹刀や木刀に鍔を装着する際、落ちないように付けるゴム製の道具