第29章 本当は
「本来あるべき形に戻っただけさ」
「何それ、つまんない言い訳?それとも冗談?」
「はっ」と鼻で笑うようにしてこちらへと視線を寄越した硝子はギシリと古びた音を上げながら回転式の椅子へと座ると、二年が担当していた任務の資料にでも目を通しているのだろうそのまま机へと身体を向ける。
「そのどちらでもないよ。本当に、そうあるべきだとただ思ったんだ」
「ふーん、アホらし」
「エナは悟のことが好きで、悟も彼女を好きだと自覚した。もう私の出番はないさ。そもそも、悟に自覚がないのを良いことに私は自分の気持ちを優先してきた」
彼女の寝顔を見下ろしながら、思わず触れてしまいたくなる衝動にかられる。
「何が卑怯なの、別に何も卑怯なんかじゃないだろ。自覚してなかった五条の自業自得だし、エナを大切にしてなかったアイツが悪い。それに人間なんて皆んな自分優先な生き物じゃん」
「…好きな人には幸せでいて欲しい」
「エナがあんたとじゃ幸せじゃないって言ったの?」
「いや、そういう訳ではないけれど…」
「他人の幸せなんて自分の物差しで測れるもんじゃないだろ。そんなことも分かんないのか?普段は察し良いのに、夏油は案外馬鹿だったんだな。てっきり過去のクズな恋愛事情での経験を生かしてエナを全力で落としにかかってると思ってたんだが」