第3章 気付かないふり
乱れたジャージと髪を整えて、急いでドアへと手をかける。すると…いきならりグイッと強く腕を引かれ、そして視界が反転した瞬間には「っん」と、甘く熱のこもった五条先輩の唇が再び私の口を塞いでいた。
「七海に過保護も大概にしろって言っとけ」
「…そんなこと言わないよ」
「俺は硝子に微塵も過保護じゃないけど」
「まぁ五条先輩が誰かに過保護って想像も付かないもんね…」
「とにかく言っとけよ。あと、次は邪魔すんなって」
そんなこと言えるわけないでしょう。と思いながら軽く五条先輩を睨み付ければ、五条先輩は私を余裕気に見下ろすと、もう一度噛み付くようなキスを落とし、最後にチュッと可愛らしいリップ音を立たせ唇を離した。
ガラガラと扉を開き空き教室を出て行く背中を見ながら小さな溜息をこぼす。
「…あんなキス、ずるい」
胸が痛い。やっぱり私はどうしようもなく五条先輩が好きだと。あんな意地悪なキスでさえ、私を夢中にさせ、そしてあの碧色の瞳が私を捉えて離さない。
「…ごじょう、せんぱい」
好きです。
あなたがたまらなく、好きです。