第27章 初めての
「硝子せんぱーい、借りてた漫画返しに来ましたぁ」
ガラガラっと古びた音を上げながらドアを開けば、広々とした教室の中には三つの机がぽつぽつぽつと置かれている。自分達の教室と全くの同じ配置だ。
「ん、わざわざありがとー」
私の声に気が付いた硝子先輩がこちらを振り返り椅子をギィと引くと、私はなんの躊躇いもなく教室内へと入っていく。
普通の高校ならば、他学年の教室に堂々と入ることなどそう無いだろう。けれど高専内ではそれは当然とも言える行動で、私達が三年生の教室へ堂々と入ることもあれば、先輩達が二年の教室に当たり前のように入ってくるのも日常茶飯事だった。
「どうだった?」
「面白かった!めっちゃ胸キュンしましたよー」
「それは何より、読み終わるの早かったね」
「昨日夜中の三時まで読んでましたよ」
ケラケラと笑いながら硝子先輩に借りていた少女漫画の感想を告げていれば、隣から長い手が伸びて来てその一冊をひょいっと攫っていく。
「何これ、少女漫画?」
「そうだよ」
「お前らこんなのが好きなの?つーか硝子って少女漫画とか読むんだ」
うげぇとでも言いたげに眉間に皺を寄せパラパラと漫画をめくっていく五条先輩。まぁそりゃあ異性の相手に慣れている五条先輩からしたら、こんなもの非現実的で理解出来ないのは分かる。けれどその態度は全世界にいる少女達に謝って欲しい。