第26章 極秘任務
手先が震える感覚に、やけに身体中冷え呼吸も浅くなってゆく。
「…エナちゃん」
言葉を詰まらせ俯き震える私に、雄ちゃんの心配気な声が聞こえてくる。隣にいた七ちゃんは私の震える肩をぎゅっと引き寄せた。
二人だって傑先輩のことが心配なはずだ。それでも私を心配してくれている。だけれど今は、そんな二人に応えることが出来ない。
だって、傑先輩が…意識不明の重体だなんて…
「高専でやられたのなら、きっと家入さんがいるはずです」
「…うん」
「だから心配いりません」
「…うん」
そうだ。高専には硝子先輩がいる。きっと直ぐに治してくれるはずだ。うん、大丈夫、何の心配もいらない。そう思うはずなのに…不安に震える身体が治らない。
傑先輩がやられるなど、今まで一度も想像すらしたことなど無かった。いつも制服に傷一つ埃一つ無く帰ってくるような人だ。
だけれどよく考えれば分かることだった。
私達の住んでいる世界の非道さを。その黒さを。闇のようなその存在を。
いつ、誰が何処で死んでもおかしくないというこの現在を。
私は知っていたはずだ。知っていて覚悟だって出来ていたはずだ。それなのに、傑先輩のことを聞いて少しだって平常心ではいられない。
いられるはずがない…