第24章 告げる
チクタクと時計の秒針の音だけが室内に響き渡る。
漫画が置いてある位置も、ティッシュケースの場所も、山ほど積まれたお菓子も、変わらない。私が知っているままだ。
この部屋に来なくなってそう長い時間が経った訳ではないが、数日という訳でもない。それでも変わらぬこの部屋に、何故かやけに懐かしさを感じる。いい思い出ばかりでは無かったはずだ。一人置いていかれ苦しい思いをしたはずだ。
それなのに何故…この部屋に来るとあの時の自分の気持ちを思い出してしまいたくなるのだろう。
確かにあった。あの甘い時間を。
「はい、出来たよ」
溢れ出て来そうになる感情に無理矢理蓋をする。今、この気持ちはもう必要の無いものだと自分に言い聞かせながら。
「じゃあ私、行くね。お大事に」
消毒液をビニール袋へと入れそれを持ち上げる。早々と部屋を後にしようと袋を手に引っかけた所で「エナ」と私の名前が呼ばれた。
袋を握るのとは反対の手は五条先輩によって握られている。
「…どうしたの?まだどこか怪我してた?」
胸の奥底から「辞めて」とそんな悲鳴が聞こえてくる気がした。
こんなことならば、五条先輩の部屋に来るべきじゃなかった。夜蛾先生の言葉を断って、七ちゃんや雄ちゃんに頼めば良かった。そうすることだって出来たはずだ…だってそうすれば…
「…エナ」
そうすれば、こんな切な気な顔をした五条先輩を見ることもなかったはずだから…
呼吸が止まったような感覚がした。
それは酷く苦しくて、そして心臓が押しつぶされるようだった。